教員からのメッセージ
言語テスティング、英語教育学
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点数を超えて:評価を自身の学びの力へ
2025/05/09教員には「評価」という責任ある役割があります。また、それは学習者にとっても避けられないものです。点数や合否、成績といったものが連想されることが多いかもしれません。もちろん、学習者が何を理解し、何ができるようになったのかを測定・数値化することは重要で、学習結果の証明になります。一方で、評価には学習を促すという大切な役割もあります。今回は、評価が持つそうした側面についてご紹介します。
評価には「形成的評価(Formative Assessment)」という言葉があります。簡単に言うと、「学習プロセスにおいて、何をどの程度理解しているかを確認し、指導方法や学習方法を工夫しながら、次の学びに活かすための評価」です。学習者にとっては、テストや課題を通じて、何ができていて、何がまだ不十分なのかを確認しながら、自身の学びを調整していくことに繋がっていきます。
この形成的評価は、授業内での小テスト、Q&A、ミニットペーパー、教員からのフィードバック、ピアレビュー活動、リフレクション活動など、様々な方法で実施されているでしょう。これらの活動や評価は、成績には直結しないケースもあったり、「学びに直接結びついていない」と感じて、つい何気なく済ませてしまうかもしれませんが、「自分がどこにいるか」、「次に何をすればよいか」など、学習のヒントが得られたり、自身の学び方を見直したりする大切な機会になります。
一般的に、評価を受けてその結果に注意が向くのは、最終的な成績開示などハイステークス(成績や進路に大きく影響する)な状況で、「高い得点(良い成績)で良かった」、「あまり良くなかったけど、今振り返っても仕方がない」というように、点数や成績に一喜一憂して終わってしまい、自分の学び方や理解の過程を振り返る機会が少なくなることもあるかもしれません。自身の努力の結果に意識が向くのは当然で、そのことは全く問題ありません。今回強調したいのは、「形成的評価」という観点から、評価を次の学びへの一歩にする、と前向きに捉えることもできるのではないか、ということです。評価が苦手、不安という方もいるかもしれませんが、まず、授業中のフィードバックやコメントなどを、自分の学習を見直す材料として捉えてみてください。評価は点数・成績だけでなく、皆さんの学びを深める大切なツールでもあります。
評価結果を実際の指導改善や学習行動に結びつけていくかには、さらなる議論が必要になりますが、まずは教える側も学ぶ側も「評価の力」をともに理解し合える教室づくりを目指していきたいと思っています。 -
生成AIを日々の言語学習のサポートに
2024/03/08ChatGPTが公開され、早いもので1年と2カ月(執筆時点)が経ちました。ChatGPTをはじめとした生成AI の利用については、その優れた機能や大きなインパクトゆえに、現在も国内外で多くの議論がなされています。議論の内容は、入力や出力に関する著作権の問題、出力内容の正確性に関する問題、思想や文化の中立性の問題、など様々です。日本の教育現場でも、課題での剽窃やチーティングなど懸念事項も多く、組織的な利用は難しい現状かと思います。
ただ、その有用性を捨てがたいのも事実で、個人としては、「個人情報や著作権などに関する問題など、生成AIの主要な注意事項を適切に把握した上で」言語学習の「補助的な」ツールとして活用していけたらなと考えています。活用場面について、例えば、ライティングの添削などは簡単にできます。「あなたは日本人高校生のエッセーを添削する専門家です。以下のエッセーを添削してください。#テキスト:エッセーを入力」くらいの簡単なプロンプトで十分なフィードバックを得られます。少し発展的に、単語のフォーマリティや表現の多様性(言い換え)など、ライティングのより具体的な側面について質問することも発展的な学びにつながるでしょう。他にも、英会話にも活用できます。会話の内容、自身の英会話レベル、フィードバックしてもらいたい内容などを指示するだけでも、英会話の良い練習の場となるでしょう。
聞いた話や、自身で利用しての感覚的なものですが、「英語で」、「指示を最初に」「具体的かつ詳細に」プロンプトを入力した方が出力結果の質は高いように思います。ネット上にも言語学習におけるChatGPTの活用方法について、既にかなり多くの有益かつ具体的な情報があります。それらを参考にしたり色々と試したりとする中で、皆さんの言語学習が、「自分自身に根付く言語能力」が高まる、より実りあるものとなることを願います。 -
そのテストは何のため?
2022/10/26テストといえば、定期試験、予備校模試、高校入試、大学入試、就職試験、資格試験など様々ありますが、皆さんテストは好きでしょうか。私の場合は、テスト自体は自分の力を試している感覚があり好きな方でしたが、その反面、結果(合否や点数)には一喜一憂し、つらいなあと思う側面もありました。
では、テストは何のために受けるのでしょうか。資格のため、自分の力を測るため、勉強のやる気を促すため、成績のため(仕方なく…)、受けた方が良いと言われたため、等々、ポジティブな理由からネガティブな理由まで様々あるのではないでしょうか。私自身、これらの理由はすべて心当たりがあります。
上記のような、テストが学習などに与える影響を波及効果 (washback effect) といいます。テストの波及効果をより望ましいものにするために、テスティングの観点から過去の自分に伝えられることがあるとすれば、テストには「自身の強みや弱み、得意や不得意を発見できる側面がある」ということです。テストが自分の力を診断してくれるわけです。テストを受けるとその点数など(表面的な)結果にのみ注意がいきがちですが、自分が解答した問題や結果の詳細、教員やテスト機関からのフィードバックに目を向けてみると、得意な面をさらに伸ばせるポイントや、不得意な部分を解消する足掛かりを発見できて、自身の更なる成長につなげることができる可能性があります。過去の私も、このことを意識していれば、もっと身のある学習を積み重ねられたのではないかなあ、とふと思うこともあります。
テストの波及効果を望ましいものにするためには様々な要因があり、一概に言い切ることは難しいのですが、まずは個人の観点からテストを考え直してみることを勧めたいと思います。「テストを受けて終わり!」というスタンスではなく、「テストを受けてその結果からまた学びを始める!」というスタンスでテストに臨んでみてください。
まずはその手始めとして、「そのテストは何のため?」と自問自答してみてはいかがでしょうか。 -
成長を確認できるって大切です
2021/11/24唐突に私事で恐縮ですが,ここ数年筋トレにハマっています。結構ハマっています。週2回程度のペースではありますが,重量や回数を更新できるように計画的に取り組んでいます。私はもともとオタク気質でハマり症なところはあるのですが,なぜ筋トレにハマり,かつ継続できているのかを考えてみると,自己管理と自身の成長の度合いが確認しやすいことにあるのかなと思っています。漫然と取り組むのではなく,自身の成長を確認できる目標を設定し,その目標達成のために,自分を (ある程度) 律しながら系統的なトレーニングを行います。そして,時にはその計画や取り組みを振り返りながら内容を修正します。試行錯誤した結果が成長に繋がっているというプロセスが非常に楽しいです。
こうしたプロセスには,動機づけ (やる気や意欲のこと) やメタ認知 (自身の認知についての認知) など様々な心理的要因が関わってきます。これらは,学業に留まらず,何かを学んだり習得したりする際にとても重要なものだと,筋トレを含むこれまでの経験からも感じるところです。皆さんの日々の活動には、自身の成長を確認できる指標や目標はありますか。受験や資格試験のように大きな何かを達成するという目標に加えて,自分自身の成長を確認できる目標を持ってみてください。その目標を達成しようとする中で,自分の色々な成長に出会えるはずです。
P.S. 広背筋下部を鍛えるのが難しく感じます。学生に混ざって解剖学を学びたいなあと思う今日この頃です。 -
テストとワタシ
2021/04/09今回はなぜ私が言語テスト(私の専門分野)に興味を持ったかについて簡単に記したいと思います。これまで、定期テスト、スポーツテスト、センター試験、運転免許試験、教員採用試験、など様々なテストを受けてきましたが、多くの場面でそのテストに疑問(時に文句)を持っていました。例えば、スポーツテストのハンドボール投げで、私は手が小さいためハンドボールをうまく持てず、思っていたよりも投げられませんでした。そして、これで肩力を測るのは妥当じゃない!みたいに思っていました(他にも例は色々ありますが割愛)。このような考えを持ちながら、英語教員免許を取得するために編入学し、そこで言語テストを含む英語教育学の講義を受講しました。テスト理論を学ぶことができたおかげで、自分のこれまでの疑問や文句を建設的な意見へと昇華することができ、そのままいつの間にか私は言語テストの沼にハマっておりました。そして今に至ります。
私の場合は、日々の疑問や文句がきっかけとなり、その疑問の対象が仕事になりました。私一人の力では今の私はありませんが(特に、指導教員に足を向けて寝られません)、きっかけの一端は私がずっと持っていた疑問でした。これから入学するみなさんは、何か未解決な疑問はありますか。大学で学びながら出てくるものもあるかもしれません。これからの大学生活、ぜひ疑問を持つことを大切にして過ごしてください。 -
見えないモノを見ようとして
2020/12/02今回は私の専門である言語テストについて簡単に記します。タイトルは某邦ロックバンドの曲の一節です。この曲中では天体観測の際に「見えないモノ」を見ようとするときは望遠鏡を覗き込むようです(ファンの方へ、雑な引用をご了承ください…)が、心理学研究でもこの「見えないモノ」(「構成概念」と呼ばれます)を見よう(測定しよう)として様々な道具を使用します。その道具の一例が「テスト」です。例えば、英語圏への留学に求められる英語力を測るためのテストとして IELTSやTOEFL iBTなどが有名ですが、こうしたテストを介して「英語力」という目に見えない概念が数値化(尺度化)されています。見えないモノを見るために、テストは、〇〇力のような見えないモノの概念を形成し、その測定の目的に適した道具を開発し、適切に結果を解釈できる数値にするという科学的なプロセスを経ています。私の研究はこのようなプロセスの中でテスト尺度を科学的に開発・検討することで、深く追求したくなる不思議な魅力があります。
大学はこれまで見えなかったモノが見えるようになる機会に溢れています。既知のモノに対しても未知のモノに対しても、目に見える表面的部分にとどまらず、探究心を持って臨んでみてほしいなと思います。 -
大学での英語習得のために
2020/09/09はじめまして。英語系科目を担当する久保田と申します。専門分野は言語テストと英語教育学です。
唐突ですが、第二言語習得理論には「理解可能なインプット」と「理解可能なアウトプット」が学習者の言語能力を高めるためには重要である、という立場があります。皆さんは大学受験を通して大量の「理解可能なインプット」を経験してくると思いますので、大学入学直後は英語力を高める絶好の機会です。「もっと英語力を高めたい!」、「単位取れれば…」、「大学に来てまで英語かよ〜」など思いもそれぞれかとは思いますが、この好機を生かさない手はありません。皆さんが主体的に取り組める、インプットとアウトプットがつながる講義を用意しながら、有意義に学び合えることを楽しみにしております。