教員からのメッセージ
核医学、放射線技術学
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福島国際研究教育機構(F-REI:エフレイ)
2025/04/30みなさんはF-REIを知っていますか?
F-REIは、福島県浜通り地域に拠点を置く福島国際研究教育機構のことです。ここには、福島ならではの研究開発や、福島にしかない実証フィールドなど、福島という地に魅力を感じた研究者や起業家たちが集い、イノベーションの創出に向けて、世界トップレベルの研究に取り組む場をつくろうとしています。F-REIは、福島をはじめ東北地域の復興に向けた夢や希望を実現するために設立されました。「研究開発」「産業化」「人材育成」「司令塔」という4つの機能をあわせ持ち、特に、福島の強みを生かせる5つの研究分野を基本に研究開発を進めています。その5つとは、ロボット、農林水産業、エネルギー、放射線科学・創薬医療分野、そして原子力災害に関するデータや知見の集積・発信です。
私はこのうち、放射線科学・創薬医療分野における委託研究「RIで標識した診断・治療薬に関する研究開発」に携わり、核医学治療に関わる専門人材の育成・確保を担当する実施責任者を務めています。私の研究室に所属する診療放射線科学科の卒業研究生や大学院生もこのプロジェクトに加わり、研究活動と並行して人材育成を進めています。2025年3月には、F-REIの支援を受けて当該学生たちとともにドイツとポーランドを訪問し、世界をリードする施設での核医学治療の現場を視察するとともに、共同研究の成果を報告し合いました(写真1)。
F-REIが発足してから2年が経過しました(写真2)。現在は外部委託による研究が中心ですが、2030年末を目標に、浜通り地域の浪江町西側にF-REI専用施設の整備が計画されています。将来、本学の卒業生が大学生活で培った経験を活かし、F-REIの研究者として世界に羽ばたき、福島・東北の発展に貢献してくれることを願っています! -
レントゲン博士
2023/12/20先日、私はドイツにあるヴュルツブルク大学を訪れました。この大学は、アルツハイマー型認知症の発見者であるアルツハイマー博士、白血病の命名者である病理学者ウィルヒョウ博士、そして私の故郷である長崎と縁の深いシーボルト博士の出身校として知られています。さらに、私たち診療放射線技師にとっても特別の意味を持つヴィルヘルム・レントゲン博士がX線を発見した大学としても名高いです。今回の訪問では、レントゲン博士がX線を発見した実際の研究室を訪問して、彼の業績について学ぶ機会に恵まれました(図1)。
レントゲン博士は1895年に「放射線の新種」と題した論文でX線の発見を発表しました。彼は研究と論文執筆に非常に没頭して、トイレに行く時間さえも惜しんだと言われています。このX線の発見は、放射線医学研究の幕開けとなり、現代の画像診断や放射線治療の基礎を築きました。多くの医療機器会社がレントゲン博士にX線の特許取得を勧めましたが、彼は「X線は人類が広く利用するべき」と考え、全て断りました。その結果、現在までにX線は全世界の臨床現場で広く使われ、多くの命を救っています。レントゲン博士は1901年には第1回ノーベル物理学賞を受賞し、賞金は大学に全額寄付しました。私も将来、何かしらの形で多くの人々の命や健康に貢献する研究成果を発表できるよう努力したいと改めて実感しました。
先月、福島県立医科大学とヴュルツブルク大学は研究協力のための交流協定を結びました。今後、保健科学部でも核医学領域において、大学院生を中心にヴュルツブルク大学との学生交流などを行っていきたいと計画しています。皆さんも一緒に放射線医学研究の分野で世界に挑戦しませんか! -
知の体力
2022/10/19私は、仕事の合間を縫って読書や映画鑑賞を楽しんでいます。これらの趣味は他の人の人生を追体験することができます。自分の人生で経験できることには限界がありますが、読書・映画鑑賞を通じて自分が知らないさまざまな生き方を学ぶことができます。他人が経験したことを知ることが自分自身の生き方を客観的に見直すきっかけになって、自分の人生経験を広げることにつながると考えています。
今回、京都大学名誉教授である永田和宏先生が執筆された「知の体力」(2018年発行)という私の好きな本を紹介したいと思います。この本は、日々大学という場で教育するうえでの考え方や生き方のヒントを私に与えてくれた、私にとってのバイブルです。本書の一部を要約すると、私たちのこれからの時間、将来の人生に起こることは、すべて想定外のことです。生きるということは、想定外の事態を、なんとか自分だけの力で乗り越えていかなければなりません。タイトルにもなっている「知の体力」とは、現実の実社会で応用可能な、情報活用の基礎体力であると著者は表現しています。すなわち、これから何が起こるかわからない想定外の問題について自分なりに対処するためには、知識の習得以上に、どう考えればその場を乗り越えられるかという考え方である「知の体力」の訓練が必要であると言っています。さらに、答えがあるとの前提で具体的に何かを解決するためにという目的のはっきりしたものは「学習」であり、具体的な目標を設定しない、もっとはるかに遠い未来に漠然と何かの役に立つ勉強が「学問」であると説いています。私自身も、大学教育の本来の姿は、単に知識や技術を教授するだけでなく、正解の無い問題や想定外の内容にどう取り組むかという自分で考えることができる基礎体力を「学問」を通じて鍛える場所だとつねづね考えており、本書の内容には共感することや、そうありたいと思うところが随所にありました。私は学生との向き合い方や教育方法に悩んだときに定期的に本書を読み返しています。これから大学生になる方のみならず、大学教員にも是非一読して欲しい本です。
私たちは自分の知っていることでしか世界を見ることができず、その経験や知識を応用することでしか、そこにあるものから何かを生み出すことができません。よって、若い人々には、大学生活でさまざまな経験を積んでもらい、学問を通じてたくさん学んでもらい、自分の可能性を自分で摘み取ることなく、一度しかない自分の人生を思いっきり自在に生きて欲しいと願っています。
写真は今の時期に毎年恒例で研究室メンバーで訪れる那須塩原市にある「紅の吊り橋」です。 -
努力と運と人生
2021/07/2110年ほど前、AKB48などのプロデューサとして知られる秋元康さんがSNSを通じてAKB48の「非」選抜メンバーに送った言葉が印象的でした。要約すると、「長い間、芸能界でスターを間近に見てきて、スターとして成功するために何が必要かというと、…運である。では、努力しても無駄なのかというと、それは違う。努力は必要で、言い方を変えれば、努力は成功するための最低条件である。みんな、必死に努力して、じっとチャンスの順番を待つしかない。」そして、最後に「いつか、必ず、チャンスの順番が来ると信じなさい。今の自分にできることを考えなさい。」の言葉で締めくくられ、当時20代であった私の心にも突き刺さりました。また、私自身も「いつチャンスが巡ってくるかわからないが、その時に勝負できるスタートラインにいられるように、毎日努力して自分をみがきなさい。」と偶然にも恩師から同じような言葉をかけられ、目の前の臨床業務や研究活動に邁進して、何となく自分の未来に期待していました。結果的に、運に恵まれ、大学教員になり診療放射線技師を育てるという一つの夢を叶えることができました。これらの言葉は受験生、大学生、若手社会人などあらゆる人に当てはまる大切な考え方ではないでしょうか。10代、20代の頃はまわりの人と比較して、自分の境遇をネガティブに捉えがちです。自分の境遇の悪さだけを嘆いても何も始まりません。努力を続けていると、さまざまな出会いや運が重なり、想像もできないような未来が訪れることがよくあります。
大学時代に友人たちとニューヨークを旅行し、マンハッタンにあるエンパイヤステートビルから眺めた夜景に感動しました。そして数年前に学会の合間に時間を見つけて、友人や大学の教え子たちと一緒に15年ぶりに同じ夜景を見に行きました(写真)。当時とは全く違った景色に見えました。その夜景を見ながら、15年の間に少しずつ積み上げてきたものを実感し、運に恵まれ、当時は想像もしなかった楽しい人生を送れていることに感謝しました。
皆さんのいまの頑張りが何かしらの形で報われるときが必ず訪れます。頑張ってください! -
核医学とは
2021/05/25私は放射線医学のなかでも“核医学”という分野を専門としています。核医学とは、放射線を発生する薬(放射性同位元素)を体内に投与することにより、PET装置やSPECT装置などの医療機器を用いて“生きたまま”生体内の機能や病態を可視化することができます。最近では高エネルギーを有するα線やβ線を発生する放射性同位元素を用いて“がん治療”を行えるようになってきました。実は私は、学生時代、核医学に興味が持てず、苦手な科目の一つでした。臨床業務で本気で取り組んだのがきっかけで、核医学の魅力に取り憑かれました。核医学には物理学、工学、薬学、および医学の広分野にわたる深い知識が求められ、それらの各分野の研究成果の複合的な積み重ねにより学問として進化しています。10年前には全く想像できなかった技術革新、ひいては臨床応用へとつながっています。核医学を通じて常に学び続けることの楽しさや喜びを味わうことができました。さらに国内外に多くの核医学の仲間ができ、結果的に人生が豊かになりました。今、自分が好きなことを次代を担う学生に教授しながら、一緒に勉強・研究できることが幸せです。福島県立医科大学では臨床・研究・教育すべてにおいて核医学を学ぶ素晴らしい環境が整っています。一緒に核医学を学び楽しみましょう!!
写真:PET/CT装置開発のパイオニアであり、尊敬する友人でもあるPaul E. Kinahan教授(University of Washington)を日本に招聘した際に、ヘルメットPET装置(量研/QSTによる開発)の前で。